領収書なしでも外注費は計上できる? 税務調査で認められるケースと注意点
領収書を紛失してしまった、またはそもそも発行されていなかった・・。大なり小なりこういう事例は意外に多くあります。
特に外注費など金額が大きくなりそうな支出については経費として認めてもらえるかどうか、多くの方が気になるところだと思います。
実際、税務署は「領収書なし=経費否認」というのが原則にはなりますが、きちんとした裏付けがあれば認められる可能性もあります。
今回は外注費に絞って、領収書が無い場合の対応策を解説します。
1.経費で認められるようにするための証拠の基本
領収書がない場合でも、支出の事実が客観的に確認できる資料があれば、経費として認められる可能性があります。
ポイントは、領収書に本来記載されている内容を他の手段で証明できるかどうかですが、たとえば次のような情報を裏付けることが重要です。
① いつ支払ったのか(支払日)
② いくら支払ったのか(金額)
③ 誰に支払ったのか(相手先名・会社名)
④ どんな内容の取引だったのか(仕事内容・目的)
これらを示すために、請求書・振込明細・メールや契約書・納品書などを組み合わせて説明できると、税務署にも説得力を持たせやすくなります。
この4つの要件を覚えておくようにしてください。
2. 振込支払いなら“記録”が証拠となる
銀行振込などで外注費を支払った場合は、振込履歴で①支払日、②支払金額、③支払先が判明します。この3つは税務署も疑いようのない事実なので疑義は生じません。
あとは、「④仕事内容」を税務署に説明が必要ですが、税務署の方で納得できなければ支払先に反面調査、ということもあり得ます
反面調査を避けるためには例えば、
・請求書を再発行してもらう。
・メールやラインでのやりとりの履歴を示す。
・工事などの工程表にその支払先が入っていることを確認してもらう。
・他に見積書や注文書、契約書などの書類があれば提示する。
・完成物、成果物の写真などを提示する。
このように「誰が見ても外注費」と判断できる客観的な証拠があれば、その書面で相当な疑義がない限り反面調査はされないでしょう。
3. 現金支払いの場合のリスクと対応
現金で支払った外注費で領収書が無い場合はなかなか証明が難しいです。
4要件「①支払日、②支払金額、③支払先、④仕事内容」のどれ一つ証明できる書類等がないからです。
対応策としては以下の点が重要です。
・領収書の再発行を依頼する
・外注先との契約書・発注書・納品記録・メール記録などを提示する。
これらを用意できれば認められる可能性は高いと思います。
また、「支払日・金額・支払先・作業内容・理由(領収書なしの経緯)を記載した書類を作成する」といった方法もありますが、証拠としては正直薄いので、支払先に対する反面調査を前提に考えるべきでしょう。
4. 反面調査の可能性と備え
領収書がなく支払実績の証明が弱い場合、税務署が「反面調査」に踏み切る可能性があります。
反面調査とは、調査官が外注先に訪問や電話、書面照会などで、支払いの事実や金額・内容を確認する調査です。
備えておきたい対策としては、
・反面調査されないために領収書・請求書の再発行を依頼する。
・契約書・注文書などを交わし記録を残しておく。
・外注先に反面調査がある可能性やあれば適切に対応してもらえるようお伝えしておく。
反面調査で支払実態が確認できなければ経費計上は認められにくくなりますので、外注先に対応してもらえるよう連絡しておくと良いと思います。
5. どうしても証拠がないときの落としどころ・交渉
やはり領収書も記録も何も残っておらず、支払先も不明というようなケースは非常に不利なのは間違いありません。
このような場合、推計計算を提示して交渉するしかありません。
推計方法を使う際は、合理性と根拠が重要です。例えば、
・同業他社比較や過去実績で外注比率を推計する。
・類似案件の外注率などをもとに外注比率を推計する。
ただし、外注費は変動の大きい項目であるため、他社比率による推計は採用が難しいケースもあります。
また、外注は相手先があることなので、少なくとも相手先が判明しなければ難しい、と認定されるケースもあります。
外注費は、一般的な経費のように単純な推計で処理できるものではありません。
事業の利益(所得金額)に大きく影響する重要な項目のため、税務署も特に慎重に確認を行う項目になります。
最終的には税務署とうまく交渉することが大切になります。
6.領収書等が無い場合の消費税の計算は?
1. 原則としては「帳簿+適格請求書(インボイス)の保存が必要」
消費税の仕入税額控除(消費税の控除・安くする)を受けるには、以下の2つがそろっていることが条件になっています。
・帳簿に必要事項を記載していること
・インボイス(=領収書・請求書等)を保存していること
つまり、領収書や請求書などの証拠書類がない支出は、原則として消費税の控除ができません。これが原則的な取り扱いになります。
2. 領収書がなくても認められる可能性があるケース(原則)
自販機や公共交通機関など、そもそも領収書が発行されない取引は領収書が不要なケースもあります。
ただしこれも、「支払日・金額・相手先・内容」などが帳簿にきちんと記載されていることが前提です。
ですので、例えば銀行振り込み履歴のみで「支払日、支払い金額、支払先」がわかったとしても、消費税の控除は受けることができない、といのが原則です。
3. 税務調査ではどう判断されるか
仮に経費は認められても、「領収書・請求書等・帳簿書類がない=消費税の控除なし」となることが原則です。
これは消費税法で決められているのでどうしょうもない事実です。
ですので、完全なお願いベースで交渉するしかありません。
たとえ領収書がなくても、振込記録・メール・契約書などで裏付けられれば認められることもあります。逆に、現金払いで証拠がないと、消費税の控除が認められないリスクが高まります。
また、対応する調査官やその上司である統括官にもよるところがあるので、粘り強くお願いするしかないでしょう。
銀行履歴やカード履歴のみで経費計上を行っている場合、きちんと領収書や請求書などを保管するようにするべきでしょう。
7.まとめ
・外注費は支払先が明確なため、領収書なしのリスクは高い
・振込記録・契約書・納品記録などを組み合わせて説明することが大切
・証拠が不十分だと反面調査や否認リスクが高まる
・最後の手段として合理的な推計を提案する可能性も検討する
・消費税の控除を認めてもらうには最低でもインボイス(領収書、請求書等)が必要
外注費について領収書がない場合は、税務署との交渉がうまくいくかどうかが納税額を大きく左右することになるケースが多いです。
日頃から記録を残す習慣をつけ事前準備をしておくことが、税務調査の一番の対策でしょう。
税務調査の現場では、ちょっとした証拠の有無が判断を分けることもあります。当事務所でも、状況に応じたアドバイスを行っていますのでお気軽にご相談ください。